50の手習い [コラム]

 最近、社会人になってからサックスを始める人が増えています。その中には「仕事に余裕が出来たから。」「子育てが一段落したから。」と言う理由で楽器を始める50才前後の方も沢山います。

 このような方々が一様に言うのは「この年から始めたのでは上手くはなりませんよね。」と言うような意味の事です。確かに、成長期の子供に比べれば運動能力的にも、吸収力に関しても劣っているでしょうが、趣味で楽器を楽しむには何一つ問題はありません。外国の演奏家に聞くと「勿論個人差はあるけど、70才位までは上手くなるはずだよ!」と答えます。友人の体育の先生や医者等に聞いても同様の答えが返って来ます。そう考えれば50才なんて若いものです。

 私が留学していたボストン大学には50才の音大生がいました。彼は子供の頃から音楽を勉強したかったけれども、経済的に余裕がなく音楽を勉強することは出来なかったそうです。そこで彼は会社を作りそれを大きくし、音大に行くだけのお金を作り、ゆとりが出来たところで勉強を始め、やっと音大に入ったのが50才だったと言う事です。彼に会ったことはあるのですが、50才になって音大生になった理由はアメリカの友人から聞きました。

 当時、私はプロとして演奏することを諦めていました。国立音楽大学に入ってすぐ、ひどい腱鞘炎になり、それがきっかけで軽い右半身麻痺になり、大学時代に充分な練習ができなかったのです。何年かは楽器どころか日常生活にも支障がありました。とりあえず練習が出来る様になったのが26才の頃です。26才というのは、当時の私の考えではプロになるには遅すぎる年令でした。そして、私がアメリカに行ったのは27才です。しかし、アメリカの友人は「お前は27才だろ?」「しかも、一度は専門の勉強をしたんだろ?」「何で諦めなければならないんだ?」「やる気があるならやってみろ!」と励ましてくれました。そして体に障害を持ちながらもプロとして演奏しているプレイヤーの話も私を勇気付けてくれました。皆さん良くご存知のD.サンボーンもその一人です。

 しかし、練習しなおすと言ってもやはり若い頃の様には行きませんし、健康の事を気にしないで練習していた頃とも勝手が違います。そこで、トレーニングの為の専門の知識が必要になってくるのです。私の場合独学で勉強しましたが、探してみると日本語に訳されたものでも沢山の専門書が出ています。外国語のものも含めると相当の数になります。その知識から言っても「50才からでも充分上手になれる。」と確信しています。

 ところが、実際には伸び悩んでしまう方が少なくありません。色々と理由が考えられますが、一番の原因は考え方にあるような気がします。特に問題なのは、これから新しい事を勉強しようとしているのに、今までの経験でそれらを理解しようとする事です。これは食べた事も見た事も無い料理を、他人の話と写真だけを頼りに作るのに似ています。美味しい料理を作るには、まずそれを食べて味をしっかり覚えていないと作りようがありません。料理の本には材料やその量、調理の仕方や火加減など詳しく載っていますが、その中には「少々」とか「弱火」など好みや状況によってどうにでも解釈出来る様な部分が沢山あります。最終的には勘に頼らざるを得ません。その勘は、実際に食べた時の経験や以前料理をした時の経験によって支えられるのです。経験は他人の話や写真では得る事ができません。これと同様に、教則本に書かれていることは、ある程度経験を積んでからでないと感覚的には理解できないのです。つまり、「教則本に書かれていることを理解してから練習すれば上手くなる。」という考え方には無理があるのです。

 例えばアンブシュア(口の形)を教えたとします。私が生徒さんを見て「ここの筋肉が足りないな。」「まず、ここの筋肉を鍛えよう。」と考え、それを説明し、その為のアンブシュアを指事したとします。すると「いや、それは私が聞いた(読んだ)話とは違う。」と、自分の知識で理解した事だけで練習しようとすることがこれに当たります。また、「いやー、それは無理ですよ。」などと初めから諦めてしまう。このような方が伸び悩んでいる方の中には以外と多いのです。これでは、医者が処方箋を出しても患者が飲まなければ病気が治らないのと同じで、どうしようもありません。勿論、私(先程の例では医者)の指事が全て正しい訳ではありませんが、一つ々々クリアして行かなければ問題は解決して行かないのです。

 また、前回の「スポーツを真似よう!」で書いた中の「楽器を操る為にはある程度の練習と時間が必要だ。」と言うことを理解していない方が多いのも原因の一つでしょう。これは、やはり「楽器を演奏するのに運動能力は必要無い。」と考えている方が多い為でしょうか。吹き方さえ習えばすぐに良い音が出ると思っている方が少なくありません。楽器演奏をスーポツと同じに考えていただければ、もっと上達は早いと思うのですが、、、。

 もう一つは、楽器を演奏する前に、楽譜にこだわる方が多いと言う事です。初めて楽器を習う方は決まって「あの~、楽譜が読めないんですけど大丈夫ですか?」と聞いて来ます。これは、「まず楽譜が読めないと楽器は上手になれない。」と考えているからでしょう。楽譜を読む事と楽器を演奏する事とは全く別の事だと考えて下さい。もともと、人間には楽譜を読みながら楽器を演奏するという運動能力はないのです。初めからそれをしようとすれば挫折するのは当然の事なのです。自動車教習所でも習いましたが、反射神経が良い人でも目で見てから行動するのには0.5秒~0.6秒程かかるそうです。これは、ちょっと速い曲の1拍の時間です。つまり、楽譜を見て演奏すればどんなに反射神経が良い人でも曲によっては1拍遅れるということです。これでは演奏になりません。実際には演奏する曲を覚えるしかないのです。楽譜を読みながら演奏するためには、楽器とは別のトレーニングをする必要があるのです。ですから、演奏を仕事にしている人以外は楽譜を読みながら演奏出来る必要はないのです。「楽譜は自分が今練習している曲を思い出す為。」くらいに使えば良いのです。

 私は、楽譜を見て練習するよりも、音(運指)を口で言ってもらいながら曲を教えてもらい、そのレッスンをまるごと※録音してしまうことをお勧めします。そして、その録音を聞きながら練習するのです。その録音には先生の模範演奏も入れておけば完璧でしょう。楽譜などの理論の勉強はある程度、吹けるようになってから勉強した方が良いと思います。

※録音する場合はカセット・テープの様に機械によって音の高さが変わってしまう物よりもMDやDAT(知っている方に聞いて下さい。)の様に音の高さの変わらない物が良いと思います。ビデオも音の高さが変わらないHi-Fi録音やデジタル録音が出来る物をお勧めします。
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