スポーツを真似よう! [コラム]

 私が言うまでもないことですが音楽は芸術です。しかし、楽器を演奏する為には様々な運動能力が必要になります。持久力、瞬発力は勿論、演奏中に起こるあらゆることに対応する為の判断力、そして意外でしょうが、動体視力まで必要になるのです。つまり、スポーツをするのと同等の運動能力が必要になるのです。

 しかし、この事に対する認識は日本ではまだ少ないような気がします。その証拠に「家の子は運動はダメなので、楽器を習わせようと思うのですが、いかがでしょうか?」と言う相談を良く受けます。このような質問をするのは「楽器を演奏するのに運動能力は必要無い。」と考えているからです。また、楽器の練習というと「ただひたすら楽器を吹き続ける。」というのもその一例でしょう。これをスポーツに置き換えると「朝から晩まで試合をしている。」と言うのに近いと思います。スポーツでは一日の練習の中でウォーム・アップやクール・ダウンを行うのは当たり前ですし、体力作りやフォーム作りに多くの時間を裂くのも当たり前です。しかし、楽器の練習の場合はどうでしょう。これらをあまり重要には考えていないように思います。

 また、体力作りに関して無知な指導者が多いと言う事も否定できないと思います。腹式呼吸の練習と称して腹筋のトレーニングをすると言うものや、口の筋肉を鍛えると言う理由で厚いリードを付けて練習する等と言うものもその一例でしょう。

 まず、腹式呼吸について考えてみましょう。腹式呼吸と言う言葉に「腹」と言う字がある為なのでしょうが、腹式呼吸にしろ胸式呼吸にしろ呼吸をするのは肺です。腹筋を鍛えたところで呼吸を鍛えることはできません。しかし、勘違いをしないで下さい。私は「腹筋運動が無駄だ。」と言っている訳ではありません。腹筋は勿論、体を支える筋肉を鍛えることは楽器を演奏する上でとても大切なことです。是非行って下さい。ただ、「腹式呼吸を鍛えるのであれば腹筋を鍛えても意味がありません。」「きちんとしたブレス・トレーニングをして下さい。」と言っているのです。ブレス・トレーニングについてもいずれOne Point Lessonで取り上げるつもりです。

 次に、厚いリードで吹くと言うことはボーリングで言えば「重いボールで練習すれば腕の力が付いて上手くなる。」野球で言えば「鉄のボールでキャッチボールをすれば、肩の筋肉が付いて球が速くなる。」と言うのに近い発想です。皆さんはこれで本当に上手くなると思いますか?筋肉が付く前に関節を痛め、上手くなる前にフォームが滅茶苦茶になってしまうのが殆どだと思います。つまり、これで上手くなるのは一部の強靱な体を持った人だけです。普通は重いボールを使う為にはその為の、速いボールを投げる為にはその為の練習を別にするはずです。

 また、ちょっと吹いてみて上手く音が出なかったり、指が動かなかったりしただけで「自分には才能がない。」と諦めてしまうのも同じ理由からだと思います。スポーツだったら、ちょっとやってみてだめだったら「最近運動不足だな。」「もう少し体を鍛えよう。」と考えるのではないでしょうか。楽器も同じに考えれば良いのです。「中々良い音が出ない。」と愚痴る前に良い音を出すために必要なトレーニングをするのです。「中々指が動くようにならない。」と諦める前に指を動かすトレーニングをするのです。

 楽器を始めた人が目標にするのはCDで聴いた演奏であり、先生である場合が殆どでしょう。残念ながらそれはすぐには出来ません。それなりの練習が必要になります。これを私の好きな野球に例えると、野球を始めたばかりで「野茂選手のようなボールが投げられない。」「私には素質がないんだ。」と言っているようなものです。目標は高い方が良いと思います。しかし、目標が高ければ高い程実現には練習が必要になります。また、野茂選手のようなボールが投げられなければ野球が出来ないかと言うとそんなことはありません。野球を楽しみながら個人的には最高の目標(例えば野茂選手)を目指す事は充分可能です。音楽も同じように考えれば良いのではないでしょうか。自分の技術が目標に近付いてから音楽を楽しむのではなく、楽しみながら自分の技術を向上させて行けば良いのです。自分が吹いてみたい曲は「自分にはまだ早いかな?」等と余計な事を考えずに、吹いて行けば良いのです。但し、肉体的にも精神的にも無理はしないことが絶対条件です。

 一つ一つ例を挙げているときりがないのでこれくらいにしますが、楽器で行き詰まった時、そのときの自分の状態をスポーツに置き換えて見てはいかがでしょうか。きっと解決策が見つかると思います。また、楽器演奏をスポーツと同じに考えると楽器を吹く以外にもトレーニングしなければならないことが沢山ある事に気が付くはずです。趣味で楽器を楽しむ人の場合楽器を吹く場所と時間を作るのは容易ではありません。しかし、楽器が吹けない時の時間を上手に使う事ができれば、楽器を吹く時間が短くても早く上手になる事ができるのです。スポーツの良いところをもっと真似しましょう!
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