二重人格になろう! [コラム]

 今度は上達の早い性格について考えてみましょう。私の経験では、気持ちの切り替えの上手い方や、柔軟な考え方のできる方は、比較的上達が早いような気がします。気持ちの切り替えが下手な方は、演奏会等でミスをした場合、それが精神的にマイナスに作用する場合が多く、それを克服するために多くの時間が必要になります。また、一つの考えに固執する方は調子が良い時は良いのですが、一度壁に当ると中々そこから抜けだせない場合が多いのです。しかし、持って生まれた性格や長い時間をかけて作り上げて来た考え方を変えるのは難しいことです。そこで、音楽に関してだけ二重人格になることをお勧めします。

 「二重人格になれ!」等といきなり言われて戸惑う方も多いでしょうが、実際にやってみるとそんなに難しい事ではありません。練習する場合、自分の目的とは反対の練習や、自分が正しいと考えるものとは反対の練習も一緒にするのです。例えば、高い音を練習する場合、一緒に低い音も練習するのです。良い音を出すためには厚いリードが良いと思うならば、薄いリードで良い音を出す練習をするのです。タンギングの練習をするならばロングトーンもセットにするのです。これも、スポーツに置き換えてみると考えやすいでしょう。高くジャンプをする場合、低くしゃがみ、ボールを遠くに投げる場合腕を大きく後ろに引くはずです。つまり、反対の動作がとても大切なのです。沢山息を吐くためには、沢山息を吸わなければなりません。クラシックが好きならジャズを研究するのです。暗譜が苦手な人はいつも譜面を置いて練習しますが、暗譜が苦手な人こそ暗譜で練習すべきです。但し条件があります。無理はしない事です。

 私は大人の生徒さんに「先生はあまのじゃくなんだから。」と良く言われます。これは、生徒さんが人から聞いた事や、本で読んだ事を私に質問した時に、必ず「それでも良いのですが、こんな考え方もありますよ。」と付け足すからでしょう。大人の場合一度考え方が固まってしまうと。それを変えるのはとても大変になります。しかし、音楽の理論やマニュアルは例外だらけなのです。柔軟な考え方が出来ないと必ず壁につきあたってしまいます。これから、もっともっと勉強して行かなければならないときに、一つの考え方に捕われて欲しくないのです。ワン・ポイント・レッスンで薄いリードを勧めているのは薄いリードがベストだと考えているからではなく、「厚いリードが良い。」と信じている為に伸び悩んでいる方が多いからです。私のレッスンで厚いリードを勧める場合も勿論あります。

 それから、殆どの方が(私自身も)演奏会などの本番では良い演奏をしたいと考えるでしょう。その結果練習で上手く出来ないところで「本番だけでも良いから上手く吹いてやる。」みたいな気持ちになりがちです。そして、苦手なところに神経を集中したばかりに、普段間違えないところで間違えたりしてしまうのです。これは、ピンチで調子の良い大打者を打ち取っておきながら、ピンチでも何でもないところで調子が悪い打者にホームランを打たれて負けたピッチャーのようです。大打者に打たれた場合は「力不足だった。」と諦めも付き、「この次は頑張るぞ!」と前向きに気持ちを切り替えやすいのですが、打ち取って当たり前の打者に打たれた場合はショックに悔しさが加わります。これは後を引きます。演奏にミスはつきものだと考えて下さい。ミスをしない演奏を目指していると、中々上達しないばかりか、単調で緊張感がなく、つまらない演奏になりやすいのです。もうそろそろ、お解りですね!「本番ではミスをしてはいけない。」と考える方が多いのでこのような事を言う訳です。

 また、1曲全部集中するのも初めは難しいと思います。そこで、緊張する場所とリラックスする場所を予め決めて練習しておくのです。つまり、2つの性格を使い分ける事も練習するのです。まずは、確実に吹けるところに集中し、苦手なところは運に任せると言うのはいかがでしょうか?これができたら今度は、練習では集中し本番ではリラックスするようにするのです。勿論機会があれば反対の方法も練習してみるのです。こうしていく間に自分に一番合った方法が見つかって行くでしょうし、多くの経験を積む事で柔軟性も身に付くはずです。

 「上手くなったら人前で演奏しよう。」と言う考え方よりも「人前で演奏しながら上手くなろう!」と考える方がメリットが多いと思います。その時に、相反する2つの事を(工夫して)試してみて下さい。繊細な演奏と大胆な演奏。リラックスした演奏と緊張した演奏。スピード感のある演奏とスローな演奏。十分練習した演奏と殆ど初見に近い演奏等々色々考えられるはずです。いつも真面目な人がステージでは仮装等をしてふざけたり、いつも戯けている人がステージでは渋く決めたり、ステージでは別人になっても良いではないですか。そして、自分が人前で一番力を発揮できる方法を見つけられたら、きっと演奏する事が楽しくなるはずです。その為に、二重人格を(計算して)利用しましょう。
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