イメージ・トレーニング [コラム]

 突然ですが、皆さんは頭の中で1曲丸ごと思い浮かべることが出来る曲は何曲位ありますか?伴奏も思い浮かべられれば完璧ですが、そこまでは難しいので、メロディーにイントロ、エンディング、間奏を含めて思い浮かべられる曲で構いません。数えてみると以外と少なくありませんか?曲を早く、確実に仕上げるには曲のイメージを自分の頭の中にしっかりと作っておく事はとても大切な事です。しかし、これがしっかりと出来ていない方は非常に多く、それが原因で伸び悩んでいる方も少なくありません。そこで、今回は自分の頭の中に曲のイメージを作る事の大切さ、その方法についてお話しようと思います。

 例えば、始めて行く(叉は殆ど道を覚えていない)場所に、地図を見ながら行く場合と、良く道を知っている場所に行く場合とでは、どちらが運転に集中し易いでしょうか?地図を見ている時はそちらに気が取られますし、道を捜している時はそちらに気を取られます。これは、どう考えても良く道を知っている場所に行く場合の方が運転に集中し易い筈です。これと同様の事が演奏にも言えるのです。つまり、良く知らない曲を楽譜を頼りに演奏するよりも、良く知っている上に(しっかりと)暗譜している曲の方が、演奏に集中できるのです。勿論、慣れ過ぎて集中力がなくなるタイプの人も居るでしょうし、暗譜が中途半端だと思い出す事に気が行ってしまい、逆に演奏に集中出来ない事もあるでしょうが、これは、初見の曲を譜面を頼りに演奏するのと違い、一人々々気をつけて工夫すれば克服出来る筈です。

 また、ちょっと努力して、道を覚える時に地図を見て周りの道の構造を覚えておけば、いつも使っている道が事故や工事等で使えなかった時に慌てる事なく脇道を使って目的地に辿り着く事が出来ますし、時間ごとの込み具合等も一緒に覚えておくとその時間々々で適格に道を選ぶ事が出来る筈です。これと同様の事も演奏にも言えます。自分のメロディーと一緒にイントロ、エンディング、間奏は勿論、伴奏も覚えておくのです。そして、ちょっと努力して曲の構成、和声の進行等も覚えておけば、本番中に(必ずと言って良い程)起こるミスやトラブルに適格に対処する事が出来、音楽を壊す事なく乗り切る事が出来る様になります。プロの演奏会でもミスやトラブルはあります。しかし、その多くが観客に気付かれる事はありません。これは、プロの場合、ミスやトラブルがあっても、音楽を壊さない為の準備と努力をしているからです。「プロはミスをしてはいけない。」と言う人もいるでしょうが、この事の是非は機会があればお話しましょう。

 では、話を戻します。「曲を練習する場合は曲を何度も聴いて覚えた方が良いですよ。」とか「この曲は3ケ所の部分で同じ伴奏(叉は同じコード)が使われているので、同じメロディーを3回演奏しても良いですよ。」と言うような話をすると「私はもう歳なので記憶力には自信がありません。」とか「曲の構成だとか、和声の進行だとか、難しい事は解りません。」と言う返事が必ず返ってきます。確かに、これらを理論的に、しかも自分一人の力だけで行うのは相当大変な事です。そこで、機械や先生(叉は吹ける人)を利用するのです。

 まず、曲を練習する場合、その曲を演奏したものを探すのです。CDがあれば一番良いのですが、CDが無い場合は先生に演奏してもらい録音しておきます。また、レッスンの教材になっている曲の場合、殆どの曲にCDやMIDIデータが用意されているはずです。これを手に入れて録音しても構いません。MIDIデータでしたら、根気よくホームページを探して見ると、お目当ての曲が見つかる場合がありますし、音楽の事は良く分からなくても、楽譜通りに譜面を移して行く(打ち込む)と、それを曲として演奏してくれるソフト(Band_In_A_Box、ミュージ郎等)もありますので、自分で作ってみても構いません。とにかく、演奏を手に入れ、それを暇があれば聴いて覚えるのです。カセット・テープやMDに録音して通勤、通学の間にウオークマンで聴いても構いませんし、家事の間流しておいても構いません。移動中に自動車の中で聴いているという生徒さんもいます。これだけで練習の効率は随分と良くなります。この時に、同じ曲でも違う演奏を出来るだけ沢山探して、それを覚えると更に効率が上がりますし、自分なりの曲のイメージを作るのにも、本番に強くなる為にも良い結果が得られます。これは、先程の例で言うと、同じ目的地に行くのに出来るだけ沢山の道を覚えるのと同じ事になります。

 曲を覚え、ある程度吹けるようになったら、暗譜します。暗譜するとは言っても全曲を丸ごと覚える必要はありません。初めに、先生に曲を2~4小節位の短いフレーズに分けてもらい、1番目のフレーズを覚えたら次は2番目のフレーズと言う様に、それぞれのフレーズを覚えて行きます。2番目のフレーズを覚えている時に1番目のフレーズは忘れてしまっても構いません。この時に覚え辛いフレーズは本番に間違えやすいところですので、特に練習しておきます。曲を練習する時、初めからこのように暗譜しながらするのも良い方法だと思います。

 次に、一度暗譜したフレーズと楽譜を関連付けします。つまり、各フレーズの初めの音符を見れば、そのフレーズの後の部分は見ないでも吹けるようにするのです。慣れてくると、音符を見なくても楽譜を眺めるだけで、フレーズを思い出せるようになってきます。このような暗譜でしたら、少し練習すれば誰にでもできるようになります。

 そして、曲の構成です。これは完全に先生に頼ってしまいましょう。詳しく説明するとそれだけで、1つのコーナーになってしまうので、ここでは簡単に述べますが、曲の構成を表すのに、フレーズ毎にアルファベットで名前を付け、その組み合わせで構成を表す方法が一般的です。例えば「枯葉」の構成を同様にして表すと「a-a-b-c」と4つの部分に分ける事が出来ます。しかしフレーズは「a b c」の3種類です。曲によっては「a-a-b-a」と2つのフレーズで構成されている曲も少なくありません。初めは「何となく。」で構いませんから、これも頭の角の方に置くようにしておいて下さい。曲のイメージを作ったり、暗譜する際役に立つ日がきっと来ます。

 このような練習を続けていく事で、曲を暗譜するコツが解るようになりますし、自分が演奏する場所ばかりに気を取られるのでは無く、曲全体の構成を考えながら演奏する事ができるようになります。そして、曲のイメージを頭の中に創り、それを実際の音にする為の準備ができる訳です。

続・イメージ・トレーニング [コラム]

 今回は、題名通り前回の続きです。

 前回お話したイメージ・トレーニングで目標にした事は、「楽譜を見たらメロディーが頭に浮び、頭にメロディーが浮べばその通り楽器が吹けるようになりましょう。」そして「可能ならば、本番で演奏する曲くらいは楽譜を見なくても頭の中でイメージする事ができ、暗譜で演奏できるようにしましょう。」と言うものであり、その為の練習方法等を簡単に述べたつもり(文章に自信がないもので、、、。)です。今回はそれを更に発展させて行こうと思います。

 皆さんは、同じ楽譜を同じように吹いているのに、上手な人が吹くと全然違って聴こえるとか、CDの演奏をそのまま譜面に起こした(コピーした)ものを一生懸命練習しているのに、CDの演奏とは中々同じにならない、と言うような経験をした事はありませんか?この原因を、多くの人は「演奏技術(メカニック)の差」だと思っている様です。確かにそれもあるのですが、それ以上に問題なのは、「表現力(テクニック)の差」だと私は思います。メカニックとテクニックの話もいずれしましょう。

 そもそも楽譜と言うものは、音楽の膨大な情報のほんの一部分しか記録する事ができないのです。つまり、メモ程度のものなのです。工夫すれば沢山の情報を記録する事ができるかもしれませんが、それでは楽譜が余りにも複雑になり実用的ではありません。楽譜を書く人は「単純明解な楽譜で、如何に多くの事を表現するか。」工夫する訳ですし、その楽譜で演奏をする人は「この単純な楽譜から、如何に多くの事を読み取るか。」を工夫する訳です。その工夫が有るか無いかによって演奏は大きく変わってしまうのです。先程述べたような演奏の差も、楽譜から多くの事を読み取っているか、書かれている事以外何も読み取っていないかの違いから起こる訳です。

 また、出来るだけ楽譜を簡潔にする為に、楽譜を書く時には「音楽の常識としては当たり前の事は書かない。」と言う習慣があります。しかし、これが話を複雑にするのです。常識は音楽のジャンル、国、時代によって大きく変わってきます。楽譜を書いた人にとっては当たり前でも、楽譜を読み取る人にとっては当たり前では無い事が沢山あるのです。私が自分にとって新しいジャンルの音楽にチャレンジする時、初めにぶつかるのもこの「常識」の壁で次にぶつかるのが「技術」の壁です。

 私はこれを克服する為に「物まね」をするようにしています。楽譜を離れ、耳だけを頼りに実際に演奏されたものを何度も聴き、それを出来るだけ忠実に再現するのです。ビデオ等があれば判る範囲内で運指も真似するようにしています。そして、ある程度真似が出来る様になったところで、それを楽譜にしたものを見てみるようにしています。それを、何度もくり返す間に楽譜を見ただけで楽譜に書かれていない事も読み取る事が出来る様に、つまりその曲の「常識」がある程度判るようになります。

 「それはちょっと難しそうだな~。」と言う人は、自分が吹いてみたい曲を吹ける人に助けてもらいましょう。方法は簡単です。曲を短いフレーズにに分けて、楽譜を使わずに暗譜しながら教えてもらうのです。この時、言葉での指示を必要最低限にして教えてもらうようにします。階名は勿論、タンギングやアクセント等の有無の判断も自分の耳を頼りに真似をするのです。すぐに「どうやって吹いてるんですか?」とか「これで合ってますか?」と、すぐに質問せずに、その判断も自分でしてみるのです。そして、どうしても真似出来ない所だけ具体的に教えてもらい、自分で「上手く出来た。」と思った時に「これで良いですか?」と質問するようにします。この方法で曲を仕上げるのは、楽譜を見たり細かく指示をしてもらった時よりも時間がかかります。しかし、このような練習をして練習した曲の完成度は非常に高くなります。そして何よりも音楽に必要な音感を(年令に関係なく)磨く事が出来ます。そして、音感が磨かれれば、他人の助けを借りずに、CDを聴いて曲を真似する事も可能になってきますし、しっかりと頭の中に曲のイメージを作る事が出来る様になります。

 今回は2回に渡って、曲のイメージを創る(トレーニングする)方法について書いてみました。まずは、自分に合った方法で曲のイメージを創るようにしてみて下さい。曲のイメージをしっかりと創れば創る程、技術も向上し、演奏の質も上がってきます。つまり、上手になるということです。特に、中々楽器を練習する時間が取れない方は、自分が練習しようと思っている曲のイメージを創る時間を多く取るようにして下さい。その効果が現れるはずです。

継続は力なり? [コラム]

 私は生徒さん達の発表会や演奏会のプログラムを見ていて「何故、同じ曲を演奏しないのだろう?」と言う事が以前から気になっていました。偶然そうなるのなら何も問題ないのですが、指導している先生や、主催している側が意図的にそうする事が多いのが気になっているのです。

 個人(またはグループ)のコンサートやライブならば全体を通しての構成を考える必要がありますし、コンサートやライブのテーマに添って選曲をしプログラムを作る必要があります。場合によっては演奏する場所、時間、季節、聴きに来るお客さんの層も考慮しなければなりません。しかし、生徒さん達の発表会や演奏会ではこれらの事に気を使う必要は無いはずです。一人々々が自分の練習の成果をステージで披露すれば良いだけです。一人々々が課題を持って自分の為に演奏すれば良いのです。

 また「同じ曲を吹いて差がついたら可哀想だから。」と言う人もいますが、まだ勉強中の方が演奏した場合、一人々々差が付くのは当たり前です。生徒さん達の発表会や演奏会の目的は演奏の優劣を付ける事ではないのですし、勉強の一つとして演奏している訳ですから、「差が付いたら可哀想だ。」と言う発想そのものに問題があると思います。ですから、「ミスをしてしまった。」と落ち込む必要はありません。次の演奏で「リベンジ」すれば良いのです。それよりも、「同じ曲を苦労しながら練習してきた仲間がいる。」と言う事のメリットの方が多いと思うのです。自分が上手く吹けないところをスラスラ吹いている人がいたら、その人に「どうやって練習したんですか。」と質問してみて下さい。今はスラスラ吹いている人も以前は吹けなかったはずです。きっと練習の苦労話が聞けるはずです。これが、そのまま自分の為になるかどうかは分かりませんが、ヒントにはなるはずです。反対に質問された場合は自分の練習を客観的に見直す切っ掛けにもなります。

 そしてもう一つ、「何故、一度吹いた曲を吹きたがらないのだろう。」と言う事も気になっています。プロの場合、いつも同じ曲(一流のプロでは話は変わってきますが、)を吹いていたのでは商売になりません。しかし、趣味で音楽を楽しむ方の場合、沢山のCDを買ってもらったり、沢山のお客さんに集まってもらう必要はないのですから、いつも新曲を演奏する必要は無い筈です。ですから、毎回々々発表会に合わせて吹けそうな曲を選曲し、取りあえず格好を付ける(レトルト・ミュージック)様な事をせず、自分が吹きたい曲をゆっくり時間をかけて仕上げても良いような気がするのです。その為に、同じ曲を何回か人前で演奏する事はとても大切だと思います。何となく吹ける曲が沢山あるよりも、「この曲ならプロ並みだ!」と自慢できる曲が1曲ある(上手な人とは?)方が、音楽をより楽しめるような気がします。また、完成度の高い曲を1曲でも持っている人は、それを他の曲に生かす事もできます。そして、これは結果的にレパートリーを増やす事にもつながります。

 生徒さんの中に「私はかれこれ○○年サックスを習っているけど、一向に上手くならない。」「私には才能がないのでしょうか?」と質問する方がいます。残念ながら楽器は時間をかければ必ず上手くなるとは言えません。(半年計画)しかし、上達しないから才能が無いとも言えません。確実に上達する為には沢山の事を経験する必要があるのです。レッスンも個人レッスンやグループ・レッスンどちらか一つでは無く両方受ける必要がありますし、サックスだけで無く、打楽器、鍵盤楽器、歌等も習えればそれだけ上達も早くなってきます。(二重人格になろう!)また、スポーツもした方が良いでしょう。(スポーツを真似よう!)ところが、現在の音楽教室のシステムでは、このように沢山の経験を積む為には沢山のお金と時間がかかってしまい、趣味として楽しもうとすると、現実的には不可能になってしまいます。更に、発表会と言うと殆どの場合、参加費に1ヶ月分のレッスン料程度の費用がかかってしまいます。これでは、人前で何度も吹くと言う訳にはいきません。これを可能にする為には現在あるレッスンのシステムそのものを変える必要があるのです。

 「サックスが好きで、頑張っている生徒さん達に少しでも上手くなってもらいたい。」と言う気持ちはあるけれども、私一人の力で新しいシステムを作る事はできません。また、私の本業(レッスンだけでは生活が・・・・)である音楽活動を辞める訳には行かないので、レッスンに多くの時間を割く事もできません。生徒さん達の力にはなりたいけれども、力になれない事を歯痒く思っていたのです。同業者にこのような話をしても、彼等は今までのレッスン・スタイルから抜け出す事が出来ないでいます。そこで、「少しでも何かの役に立てば。」と言う思いでこのホーム・ページを作った訳です。HTMLやらCGIやら訳の分からない事ばかりで、悪戦苦闘の連続でしたが何とか1年続けてこられました。私のような素人が作ったホーム・ページでも続ける事で色々な方面に影響を与えた様で、私自身も驚いています。これは「継続が力」になったと言う事でしょうか?

 サックスを勉強している方の場合も、ただ、「習っているだけ」では上手くなる事は難しいかもしれません。やはり専門的な知識を持った人のアドバイスと練習の工夫が必要になります。そして、目先の演奏を体裁よくする事ばかりに追われるのではなく、自分の目標を実現する事に目標を置き、長いサイクルでチャレンジ精神を失わずに練習していけば、きっと「継続が力」になると思います。「継続が力」になっていないと思う方は勉強の仕方を変えてみて下さい。その時に「このホーム・ページが役に立てば良いな。」と願っています。そして、「同じ趣味を持つ者同志、力を合わせて音楽を楽しんで(草野球の様な音楽)いただけたら良いな~。」と願っています。そうすれば、すべての人にとって「継続は力」になる筈です。

絶対音感はSaxに向かない [コラム]

 ちょっと前に「絶対音感」と言う本が売れました。私も生徒さんに借りて(あっ、まだ返していませんでした。)読んでみましたが、今回の話はそれとは全然違う話です。

 絶対音感と言う言葉には(1冊の本になってしまう程)色々な定義や考え方があるようですが、一般的にはピアノの音程を完璧に覚え、全ての音をピアノの音に置き換えてドレミで言える能力を言う様です。簡単に言うと、コップを叩いた音が「ピアノのファ。」だとか皿を叩いた音が「ピアノのレのシャープ。」だとかが判る能力の事を言っている様です。私も音大に入学したばかりの頃に、ピアノ科の生徒達が食堂でコップや皿を叩いて音を当てるゲームをしているのを見て驚いたものです。絶対音感を持っていない私は「音大生ってこんなにすごいんだ。」「絶対音感を持っていない私はプロになれるんだろうか?」と不安になったものです。

 このような絶対音感は記憶に頼る訳ですから、子供の頃から勉強をしなければ、きっと身に付かないでしょう。そして、音楽家になる為に絶対音感が必要ならば、子供の頃から音楽教育を受けた人以外はプロには成れない事になってしまいます。実際、ピアノや弦楽器に関してはそのような傾向があるようです。しかし、管楽器の場合は必ずしもそうとは言えません。

 その、理由として「管楽器が移調楽器である。」と言う事があげられます。「アルト・サックスはEb管だ。」とか、「テナー・サックスはBb管だ。」とか言うのがそれです。これは、「アルト・サックスでドの音を吹くとピアノのEb(ミのフラット)の音が出る。」とか「テナー・サックスでドの音を吹くとピアノのBb(シのフラット)の音が出る。」と言う事を表しています。何か面倒な話で申し訳ありませんが、簡単に言うとピアノの「ドの音の高さ」はどの楽器も一緒だけれども、管楽器の場合は楽器によって「ドの音の高さ」が変わってしまうと言う事です。何故このような事が起こったのかと言う話はそれだけで随分と長くなってしまうので、今回は触れない事にします。管楽器の長い歴史の中で、「自然にそうなった。」と考えて下さい。ある程度楽器を吹きこなし、色々な楽器を持ち代える様になると「移調楽器の便利さ。」が分かると思います。

 話を戻します。管楽器奏者はドの音の高さ(キー)が違う楽器を吹かなければなりません。ですから、先程述べたような絶対音感を持っていると楽譜に書かれた音と実際に楽器から出る音が違って聴こえてしまい、演奏が出来ないのです。

 もう一つの理由は、音楽的な演奏をしようとすると「各音の高さを調節しなければならない。」と言う事があります。つまり、メロディーやハーモニーを綺麗にする為にはドを低めに吹いたり、高めに吹いたりする必要があるのです。この調節の仕方や度合いは、調子、ハーモニーの種類、組み合わせる楽器等の条件によって様々に変化します。また、同じ音を長くのばす場合、微妙に音程を変化させるのも良く有る事です。「楽器の王様。」と呼ばれるピアノでもこれは出来ませんが、管楽器には簡単に出来ます。管楽器ではピアノに出来ない音程を取る訳ですから、ピアノの音感を身に付けても仕方が無いのです。

 管楽器奏者は状況に合わせて最も綺麗な音(響き)がする音程を取らなければなりません。ですから、「私はアルト・サックスしか吹かないからピアノでは無く、Ebの絶対音感を持てば良いんだ。」と言う考え方も管楽器には向きません。つまり、機械的にいつも同じ音程を出していたのでは、演奏にならないのです。「それじゃ、何か色々と難しそうで、サックスなんか吹けない。」と思うかもしれませんが、逆にこれを上手く利用してしまえば良いのです。

 サックスを習う事を尻込みしている人にその理由を聞いてみると、「楽譜が読めないから。」「音感がないから。」と言う理由を多く聞きます。前にも書きましたが、「楽譜を読む事」と「サックスを吹く事」は全く違うものです。また、「音感が無い」と言う時の「音感」は「絶対音感」の事を指している場合が多い様です。管楽器を勉強するのに絶対音感は必要有りません。ですから「楽譜が読めないから。」「音感がないから。」と言うのはサックスを勉強するのに殆ど問題にはなりません。音感に関しては、演奏を聴いて「これは綺麗な(汚い)音だ。」とかが自分なりに判断できて、知っている曲を聴いている時に「あっ、音を間違えた。」等が分かる音感が有れば良いのです。演奏を聴いてそれをドレミで歌える必要等ないのです。楽譜を見て歌える必要も勿論ありません。

 綺麗なハーモニーが出ないからと言ってチューナーを持ち出し一人々々音を合わせると言うのも、絶対音感に捕われた考え方です。チューナーは絶対音感の元となっているピアノ(平均律)を基準に作ってあります。それに合わせたところで、管楽器らしい綺麗なハーモニーは出ないのです。それよりも、演奏している人達が「このハーモニーは綺麗ではない。」と感じる事が大事なのです。そして、チューナーを使って30分チューニングをするのであれば、基準の音を決め、それは固定して他の音を上げたり、下げたり色々と工夫をして綺麗なハーモニーが出るポイントを見つけるのです。30分間もあれば何回も練習できるはずです。この時、基準の音は機械に任せるのも良いかもしれません。初めはいつまでもポイントが見つからずに苦労するでしょうが、慣れてくると比較的簡単に綺麗なハーモニーが出るポイントを見つける事ができるようになるはずです。これをくり返す間に管楽器奏者が持つべき音感「相対音感」が身について来ます。「また、何やら新しい言葉が出て来たぞ。」なんて言わないで下さいね。

 相対音感は周りの音を聴きながら自分の音程を決めていく音感です。絶対音感が音を記憶する必要が有るのに対し、相対音感は状況判断を必要とします。記憶に頼るものは子供の頃から学習した方が良いでしょうが、状況判断を必要とするものはトレーニングでいつからでも身に付ける事が出来ます。ですから、サックスを勉強しようとする人が音感を付ける為には音を覚えるのでは無く、自分が置かれた状況の中で、最も綺麗な音を出す事を心掛けるべきなのです。

 サックスと言う管楽器を勉強するのなら、サックスに合った音感を身に付けるべきです。それはトレーニングさえすれば、ある程度の年令から始めても十分身につける事が出来ます。サックスに合わない「絶対音感」を「最高の音感だ!」なんて思い込んで「私には音感が無い。」だから「いくら勉強したってサックスなんか上手くならないんだ。」なんて諦めないで、サックスに合った音感を身に付けるトレーニングを始めましょう!

良い音と綺麗な音 [コラム]

 私は「良い音」と「綺麗な音」を分けて考えるようにしています。楽器に十分な息が吹き込まれ、バランスよく倍音が構成され、しっかりと楽器が鳴っている音を「良い音」と呼び、息のもれる音等、音楽に必要のない音が少ない音の事を「綺麗な音」と呼ぶようにしています。先に述べた「綺麗な音」は誰にでも理解し易いのですが、「良い音」はちょっと解り辛いかもしれません。これを理解するにはある程度の専門的な知識が必要になるかもしれません。

 私は「将来性の有る音」の事を「良い音」と言うようにしています。それを具体的に言うと先程の様な事になります。これを分かりやすくする為に野球に例えてみたい(私が野球ファンなもので・・・)と思います。

 ある野球チームにピッチャー志願の生徒が二人入ったとします。一人は速くて伸びのある良い球を投げますが、全くコントロールがありません。もう一人はコントロールは素晴らしいのですが、球に伸びも無く、全力で投げても余り速い球を投げる事は出来ません。皆さんでしたらどちらのピッチャーに将来性が有ると思いますか?実際はこれに体格や野球のセンス等々色々な要素を加味して判断しなければならないのでしょうが、投げる球だけを見れば、ノーコンでも伸びの有る速い球を投げるピッチャーの方が将来性が有ると、私は思います。しかし、即戦力として考えた場合は球は遅くてもコントロールのあるピッチャーの方が良いはずです。

 先の例の「投げる球」に該当するのが「楽器を吹いた時の音」になるのです。『良い音』と言うのは『速くて伸びの有る良い球』にあたり、『綺麗な音』と言うのは『コントロールが素晴らしい球』にあたる訳です。少々音は汚く、音程は悪くても、楽器に十分な息が吹き込まれ、バランスよく倍音が構成され、しっかりと楽器が鳴っている人、つまり良い音を持った人は、楽器のコントロールを身に付ける事で将来素晴らしいプレーヤー(演奏家)になる可能性を多く持っています。但し、このタイプの人は即戦力には向きません。このようなタイプの生徒さんを上手くする為には、専門的な知識を持った人が、時間をかけてアドバイスする必要があるのです。しかし、現在の日本の音楽状況では、このように将来性を持った人達をゆっくりと時間をかけて育てる事が非常に難しくなっています。日本で多く求められているのは、大して上手くならなくても良いから、即戦力になってくれるプレーヤーなのです。また、習う人の多くが求めているのも同様の事です。その結果、日本中に溢れているマニュアルの多くが、即戦力のプレーヤーを育てるのに有効な物になってしまっています。それはそれで良いのですが、そればかりになってしまうと、折角素晴らしい能力と将来性(才能)を持っている人達の多くを潰してしまいます。これでは、運が良かった人しか自分の能力を発揮できなくなってしまいます。

 中学、高校の吹奏楽等で求められるのも即戦力のプレーヤーです。3年生だけでバンドを組む事が出来、3年生だけでコンクールに出場する学校があるとすれば、少なくとも2年間は能力を育てる時間があります。しかし、最近ではそのような規模のバンドを維持する事も、それだけの生徒を教える先生を確保するのも殆ど不可能です。コンクールで「勝ちたい。」と思うならば即戦力の生徒を沢山作るしかないのです。各学校の先生に「勝つ事よりも生徒を育てる事を大切にして下さい。」と言いたいところですが、勝たないバンドには生徒も集まらないし、予算も確保できない事が多い様なので、それもできません。即戦力の生徒を育てる勉強と言うのは勉強で言えば一夜漬けのようなものです。これで本当の力を身に付けるのは非常に難しいでしょう。また、中学のコンクールで必要な即戦力と、高校で必要な即戦力は違います。その結果、中学で3年間一生懸命練習して「上手い。」と言われていた生徒が、高校に入って初心者で始めた生徒よりも「下手。」と言われてしまう事が良く有るのです。つまり、中学で3年間勉強した事が無駄になってしまうことがあるのです。これも継続が力にならなかった例の一つです。

 また、「倍音がバランスよく鳴った良い音」と言うのは、音程を合わせるのが難しくなります。ちょっとでも音程が違うと、とたんに不快な音になります。それに対し、倍音が鳴っていない音と言うのは、少々音程が違ってもあまり不快に感じません。例えばドラム・セットがライブで曲毎にチューニングを変えているのを見た事がありますか?1つのライブを全て同じ調子の曲に統一する事はまずありません。ですから、曲は色々な調子になっているはずです。それにもかかわらずドラム・セットは同じチューニングで全ての曲に合ってしまいます。これは、ドラム・セットの各楽器には音程はありますが、楽器の構造上倍音が鳴らないからです。管楽器の場合も同様の事が言えます。倍音が鳴っていない音で吹くと、音程が合わなくても不快な音がしないので、それが良い音だと勘違いをしている人達が多くいるのも残念な事です。言う迄もありませんが、これは「良い音」ではありません。音楽に必要のない音どころか、必要な音迄消してしまった音です。そのような人達の中では、「良い音」を持った人がいると本当に音程を合わせなければならないので、そう言う人は度々「迷惑な音を出す人」にされてしまいます。。ただ、注意して下さい。私は「汚い音が良い。」と言っている訳ではありませんので、それだけは勘違いの無いようにお願いします。汚い音は本当に迷惑になってしまいます。

 私も時々コンクールの審査委員で呼ばれる事があり、最近の吹奏楽の技術的なレベルには驚いています。しかし、その割には、本当に良い音で演奏してくるバンドやアンサンブルが少ないのが残念でなりません。それこそ、「綺麗な音」と「良い音」を勘違いしているバンドが沢山有るのです。見方によっては、良い音を見失ってしまった人達が、他との差を付ける為に、技術に走っている様な気もします。これは、出てくるピッチャー全員が、皆変化球投手で、「他と差を付ける為には更に難しい変化球を勉強し投げるしか方法が浮かばない。」のと同じです。「これから上手く成っていこう。」と言う人達が、技に逃げるのはどうも好きになれません。時間がかかっても、本当の力を身に付ける努力をして欲しいものです。

 皆さん、長く楽器を楽しもうと思うのなら、小手先の綺麗な音に満足していないで、良い音で楽器を楽しみましょう!そして、良い音が綺麗に出せるようになったら、音だけはプロです。

Sax教習所 [コラム]

 自動車の運転免許をお持ちの方はご存じでしょうが、運転免許は何種類かに分かれています。普通の車で街中を走るのでしたら「普通免許」で充分ですが、タクシーの運転等仕事で車を運転するためには「二種免許」が必要になります。バスやトラック等大きな車を運転するには「大型免許」が必要ですしトレーラー等を運転するには「けん引免許」等々、運転する車の種類や目的に応じて免許が分かれています。

 これらは違う免許ですが、街中を走るために必要な免許ですので、ドライバー同志は同じルールの中で走る事になります。。しかし、ラリーやレースに出る為には違う資格が必要になりますし、お互いが守らなければならないルールも(街中を走る為の免許とは)違ってきます。どちらも、「自動車を運転する」と言う事では同じですが、その目的は大きく違います。それによって守らなければならないルールも変わってきますし、身に付けなければならない技術も当然違ってきます。

 いつもレースで時速300Km近くで走っているレーサーが「俺は慣れているから大丈夫だ!」と時速100Kmのスピードで街中を走ったらどうでしょう?本人は大丈夫かもしれませんが、他の車や歩行者はそのような車が走って来る事は想定していませんので、周りに大きな事故を起こす可能性は十分考えられます。また、道路も車もそのような運転を想定して作っていないので、一度事故が起これば大惨事になってしまいます。また、何十年も殆ど毎日車を運転しているのに、一度も事故を起こした事がないドライバーが「私は運転が上手いから、大丈夫だ!」とレースに出場し、普段と同じ運転をしたらどうでしょう?やはり、事故を起こす可能性は大です。先程も書きましたが、「自動車を運転する」と言う事は同じですが、その目的が違う為に、守らなければならないルールや、身に付けなければならない技術は変わって来るのです。それが、違うとお互いのコミュニケーションが上手く取れないのです。

 これと同じような事が音楽でも言えます。プロとして演奏している人と趣味で楽器演奏を楽しんでいる人の場合、どちらも「楽器を演奏する。」と言う事では同じです。しかし、目的は違います。つまり守らなければならないルールや、身に付けなければならない技術は違うのです。残念な事に、日本では趣味で楽器演奏(音楽)を楽しんでいる人達が勉強し身に付けた方が良い事を、整理されていませんし、体系付けもされていません。多くの場合、プロが勉強しなければならない事や、身に付けなければならない事の、レベルを下げたものを趣味の人が勉強し身に付けなければならない事としているようです。

 基本的に違う物のレベルを変えたところで、実際には何の役にも立ちません。プロが勉強している事の内容は、プロとして最低限身に付け無ければならない事ばかりです。また、これらは皆関連性があります。何かを削って少なくしたり、出来なくても飛ばす訳にはいかないのです。これらは何かを削ったり、飛ばしたりした次点で意味がなくなってしまうのです。プロが勉強している事をアマチュアに応用しようと言う事事態に無理があるのです。

 「左折は得意なんだけど、右折は難しかったので習いませんでした。」「交通ルールは何か面倒で、2~3個しか知らない。」というドライバーがいたらどうでしょう?反対に「時速100Kmでコーナーを回る事が出来る。」「エンジンの分解、組み立てが出来る。」等々普通のドライバーには必要ないような項目が沢山有り、それがマスター出来なければ免許を出さないと言う教習所があったらどうでしょう?ここで言いたいのは、どれが正しいとか、どれが間違っているとか言う事ではありません。多くの人が楽しもうとしている事の場合、最も重要なのは、「目的を絞り、その目的を達成させる為の無駄のないマニュアルを作る事ではないか。」と言う事なのです。「他の目的の為に作られたマニュアルの一部を削除し、全体のレベルを落として使っても意味が無いのではないでしょうか。」と言いたいのです。

 しかし、これは難しい事です。私も趣味で音楽を楽しむ人達の為のマニュアルを作る努力はしていますが、中々思うようにいきません。マニュアルだけで全てをまとめようとすると、書き込みや説明が必要になり、単純明解にまとめる事が非常に難しいのです。やはり、技術を伴う事のマニュアルは専門科の指導を前提にした方がシンプルにまとめる事が出来るようです。自動車教習所の様に、自分のペースで専門科の指導を受け、決められた項目を全てマスターすれば取りあえずは好きな曲をSaxで吹けるようになるSax教習所の様な場所ができれば、Saxはもっともっと身近なものになってくると思うのですが、いかがでしょう?

まぐれから始めよう! [コラム]

 皆さんの中で「自分には速いテンポの曲は絶対に吹けない。」と諦めている方はいませんか?私の経験では、この傾向は真面目に練習を重ねて来た方の方が強い様です。速いテンポの曲が苦手な方の多くが、この真面目さが災いしているかもしれません。

 私が楽器を始めた頃は「まず、メトロノームを使ってゆっくり正確に練習しなさい。」「正確に吹けるようになったら、メトロノームのメモリを1つ上げて(少し速くして)練習しなさい。」「これを根気よく続けていれば、いつかは速いテンポの曲が吹けるようになる。」と言われたものです。つまり、「初めはゆっくりでも、毎日少しずつテンポを上げて行けば最後には速いテンポで吹けるようになりますよ。」と言う訳です。これはとても説得力がありましたし、初めは毎日々々指が速く動くくようになって行くのも実感でき、この練習方法を疑いませんでした。ところが、ある速さ迄行くと、いくら練習してもそれ以上指が速く動くようにはなりません。他の曲でもやはり同じ速さ迄来るとそれ以上は指が速く動くようにはならないのです。一時は「これが自分の限界なのかな。」と諦めました。しかし、実はこの練習には大きな落とし穴があるのです。

 筋肉には瞬発的な動作に向いたものと、持続的な動作に向いたものがあるそうです。単純に言うと、速いテンポの曲を吹く時には瞬発的な動作に向いた筋肉を使いますし、遅いテンポの曲を吹く時には持続的な動作に向いた筋肉を使います。つまり、使う筋肉が違うのです。先程の練習でトレーニングしていたのは、遅い動きに向いた筋肉だった訳です。ですから、その筋肉の出せる速さの限界が来ればそれ以上テンポを上げて演奏できないのは当然のことなのです。しかし、これはまだその人が最も速く吹ける速さの限界ではありません。先程の練習では速い動きに向かない筋肉を使っていた訳です。速い動きに適した筋肉を使ってトレーニングをすれば誰でもそれ以上のテンポで吹けるはずです。この速い動きに向いた筋肉を使って演奏できる速さの限界が、その人が最も速く吹ける速さの限界なのです。私の経験では、遅い動きに適した筋肉で吹ける速さの限界は、4分音符=100~120の速さで16分音符を吹いたくらいの速さの様です。勿論、個人差はあると思いますが、これだけでも随分速いテンポです。ですから、速い動きに適した筋肉を使えばもっと速いテンポで吹くことはできますし、先程のテンポ(4分音符=100~120の速さで16分音符を吹いたくらいの速さ)でしたら、余裕を持って吹くことができます。では、速い動きに適した筋肉をトレーニングするにはどうしたら良いでしょうか?これは「筋肉をだます(?)。」のが一番の様です。

 あるテレビ番組でバスケット・ボールの選手のジャンプ力を伸ばすトレーニングを見た事があります。まず左右の肩に1本ずつゴムひもを付けます。そしてそのゴムひものもう一方の端を地面に固定します。これでジャンプをするとゴムひもに引っ張られいつものようにジャンプすることはできません。これで練習すれば筋肉は付きますが、瞬発力を付ける為には更にもう一工夫が必要です。このゴムひもにはフックが付けられており、横にいるコーチがフックに付けられたひもを引っ張るとゴムひもが選手の肩からはずれる様になっているのです。練習方法は簡単です。選手は3回ジャンプをします。そしてコーチは3回目にひもを引き選手の肩からゴムひもをはずします。すると、3回目のジャンプする高さは、いつもよりも高くなるのです。この後すぐにジャンプしてもその高さはいつもの高さに戻ってしまいます。つまり、この3回目のジャンプの高さは偶然にしか過ぎないのです。しかし、この練習を続けていくと、偶然が偶然ではなくなってくるのです。その時のトレーナーは「筋肉が高いジャンプを覚えていく。」と言うような表現をしていました。

 持久力を鍛えるにはコツコツと練習を積む必要がありますが、瞬発力を鍛えるには偶然の積み重ねが必要なのです。具体的な練習方法に関しては(1冊の教則本になってしまう程内容なので)ここでは述べませんが、少なくとも速いテンポの曲は速いテンポで練習する必要があると言うことです。そのテンポは「まぐれだったら吹けるかもしれない。」と言う速さに設定しましょう。100回に1回しか出来なければまぐれですが、10回に1回出来ればまぐれとは呼べなくなってきます。オリックスのイチロー選手だって4割は打てないのですから、2回に1回(5割)の確率で吹ければ実力と考えて良いと思います。つまり、瞬発力を鍛えるにはまぐれの確率を上げていくと言う練習方法が適しています。そして、先程のバスケット・ボールの選手の例のようにまぐれ(偶然)も練習の工夫で意図的に起こすことが出来るのです。くり返しますが、これに関しては教則本にまとめるか、講習会等でレッスンする等しないと説明は難しいので、ここで申し上げられなくて申し訳ありません。フィンガー・トレーニングの時にリズムの工夫をするのも一つの方法です。

 1冊の本でも足りない様な内容をこの短い駄文にまとめようとしたものですから、説明が足りない部分が沢山あります。瞬発力のトレーニングに関してはプロ・スポーツのトレーナーの方が書いた良い本が何冊も出ていますので、自分に解り易い物を1冊くらい読んでみてはいかがでしょうか。そして、まぐれを積極的に使ってみましょう。

年間スケジュールを作ろう [コラム]

 趣味でサックスを楽しんでる方で、先生に付いてレッスンを受けている方の多くが、毎週(月に3~4回)程度のレッスンを受けていると思います。このレッスン回数は音大生と比べても少ない物ではありませんし、私も十分な回数だと思います。しかし、これで十分だと感じている方は少ないのではないでしょうか。

 音大生の場合、毎日数時間も練習ができますし、先輩達も先生になってくれます。また、オーケストラやアンサンブルの時間にも多くの事を学べますし、ピアノや歌のレッスン、音楽理論の授業等々、毎日が音楽漬けです。このような環境であれば週�回程度のレッスンが十分生かされるのです。そして何より、いつも周りに専門科が居て、必要な時にアドバイスをしてもらえると言う環境がとても大きいと思います。

 それに比べて趣味で音楽を勉強する人の場合はどうでしょう。社会人の場合等はレッスンの時にしか楽器を吹く事が出来ない人も多いのではないでしょうか。学生や何かのバンドに所属して毎日吹いている人でも、曲を仕上げるのに忙しくて基礎練習に時間を割く事が出来ない場合が殆どだと思います。また、基礎練習の時間を持つ事が出来ても、困った時にアドバイスをしてくれる人が近くに居なくて、結局は何を練習して良いのか解らなかったり、間違ったまま練習して無駄な時間を過ごしてしまったと言う方も多いでしょう。このような場合は週1回のレッスンでは少ないはずです。また、自分自身で練習を組める様になる為には、ある程度の音楽的な知識や楽器の知識が必要になります。

 私は今迄、このような環境の中で少しでも効率良く練習する方法や、効率が良い環境作りの話をしてきたつもりです。しかし、これは対処療法にしか過ぎません。更に、効率を上げる為には今のレッスンのあり方を根本から変える必要があります。毎月定期的に受けるレッスンは自分の技術を維持する為と割り切ってしまい。年に何回か音楽漬けになれる期間を作り、そこで上達する様にするのです。他にも趣味を持っていてそちらの方が忙しくなる月や、仕事が忙しくて趣味所ではない月がある方は(忙しい中無理してレッスンに通ったところで殆ど意味がないので)その期間サックスそのものを休んでしまうのです。

 例えば、年末年始は忙しいからサックスはお休み。2月は週2回くらいレッスンに通い基礎から徹底的に練習し、可能な限り毎日練習する。3月~6月は月2~3回レッスンに通って技術を維持。7月はレッスンに通ったり、ライブに行ったり、バンドの練習をしたりとサックス漬け。8月はサックスを休んで遊び捲る。9月10月はゴルフ三昧、サックスはお休み。11月は気分転換にピアノを習う等々・・・。自分に合わせて年間スケジュールを作ってしまうのです。

 中には「一度休んでしまうと下手になって、元に戻す迄が大変じゃないの?」と心配な方もいるでしょう。心配は要りません。一度きちんと身に付けた技術はすぐに取り戻せます。何となくダラダラとレッスンを続け、何も身に付かないよりは、ある時期集中して練習し、きちんと技術を身に付けた方が結果的には上達が早いのです。そして、音楽は総合芸術です。スポーツは勿論、絵画や演劇等々、ありとあらゆる物の要素が取り入れられています。サックス以外の事にも興味を持ち、積極的に取り込む事は、結果的にサックスの上達に繋がるのです。

 また、楽器を演奏すると言う事はスポーツに似ています。殆どのスポーツにシーズン・オフがあると思います。そのオフに体を休め、新しい知識や技術の拾得を行うのです。休む事で下手になるのではなく、休みを上手に利用して更に技術を向上させるのです。海外の音楽家もシーズン・オフを上手に使っています。その結果、70歳や80歳でも現役で演奏活動ができる訳ですし、歳を取るにつれて円熟味も増して行くのです。「オフなんて言ったら、俺なんか1年中オフだ!」と言う方もいるでしょう。その様な方は1年に1ヶ月くらいはシーズンを作ってみて下さい。今よりは、充実したサックス・ライフが過ごせると思います。

 この場合の一番の問題は、このようなレッスンに対応した音楽教室が(私が知る限り)無いと言う事です。私は今の音楽教室と言う形態は(多くの場合)現状には合っていないような気がしています。音楽を趣味として楽しんでいる人が集まり、音楽談義が出来て、バンドやアンサンブルのメンバーを探す事が出来、必要ならばプロのアドバイスやレッスンが受けられたり、ライブやコンサートの応援や協力をしてもらえる様な場所、つまり、そこに行けば音楽漬けになれる環境が必要なのではないでしょうか?私は趣味で楽しむ場合も、専門的に勉強する場合もレッスン以外の部分がとても大切だと思っています。そこが充実して始めてレッスンに意味が出てくると考えています。

 一度このような場所を作ろうかと考えた事もあるのですが、音楽家はお金とは縁が無い人種ですので・・・。難しいですね!小さな抵抗がこのホーム・ページです。どなたか「作ってみよう。」と言う方いましたら協力しますよ!

2×4の音楽創り [コラム]

 私はおまり詳しくは無いのですが、建築方法に2×4(ツー・バイ・フォー)と言うのがあるそうです。工場で壁、床、屋根等を作り、それを現場で組み立てる建築方法です。作業を見ていると箱を組み立てている様に見えます。これの利点は(各パーツを作っておけば)現場での作業が早いと言う事です。この方法を音楽創りに利用してしまいましょう。

 時々しか練習出来ない人の場合、1曲を仕上げるのは大変な事です。このような人の場合、1曲丸ごと全部を練習するのには時間が足りません。それで、初めから少しずつ練習して行く事になります。そして最後迄やっと吹ける様になったと思ったら、初めの部分を忘れてしまっている。このような事が以外と多い物です。短い曲ならば、この方法でも何とか仕上げる事が出来ますが、長い曲をこの方法で仕上げるのはちょっと無理があります。そこで2×4の音楽創りの登場です。

 まずは、パーツを分けをしましょう。音楽的に分析すると殆どの曲が幾つかのブロック(フレーズ)に分ける事ができます。そして、このブロックを更に分析すると殆ど同じブロックが幾つかあるはずです。似たようなフレーズで出来ているブロックは同じブロックとして一つにまとめてしまいます。これで、練習する箇所は随分と少なくなるはずです。

 例えば、2部形式と言う形式で出来ている曲があります。これは、a、a'、b、a''、と言う4つのフレーズで出来ている曲の事を言います。aとbは全く違うフレーズである事を表していますが、aとa'、aとa''は殆ど同じフレーズである事を表しています。似ているフレーズを一つにまとめると、この曲はaとb、2つの部分で出来ている事になります。そこで、2部形式と呼ぶ訳です。良く解らない人は、先生や詳しい人に助けてもらいましょう。

 次に、各パーツを短い曲を練習するように練習して行きます。曲全体を練習するのではなく、各フレーズをそれぞれ練習するのです。つまり、壁を作り、床を作り、屋根を作る訳です。これはパーツを作っているだけですので、いつまでたっても家にはなりません。しかも、初めに作ったパーツは時間が経てば傷みます。暇を見て修復して下さい。そして、傷みが少ない時はそれぞれのパーツを更に仕上げて行きます。

 これと同様に、各フレーズを均等に練習しても、時間差がある訳ですから、前に練習した部分は忘れてしまうかもしれません。そうしたらもう一度そのフレーズを練習するのです。一度吹けた所は前よりも短い時間で吹ける様になるはずです。これを何度も繰り替えしている間に、どのフレーズもすぐに思い出せる様になって来るはずです。そうなったら、各パーツの完成です。

 各パーツが出来たら後は一気に組み立ててしまいましょう。つまり、各フレーズをつなげて曲にしてしまうのです。これには2~3日続けて練習出来る日が必要になります。中々このような日が作れない場合は、パーツ創りに専念するのです。そして、2~3日続けて練習出来る日が来るのを待ちましょう。2~3日でいきなり曲を仕上げるのは難しいですが、各パーツを作ってあればそれ程難しい作業ではありません。

 まずは、工場で書くパーツを作り、晴れた日に一気に組み立てて家を作るように、あまり練習時間が取れない時は(初めから曲を練習したり、曲を通す練習をするのでは無く)各フレーズを仕上げるの練習をし、続けて練習出来る日ができたら、一気に曲に仕上げてしまうのです。前章触れた「年間スケジュール」をたてる時に、パーツ作りの期間、曲作りの期間等も考えてみても良いかもしれません。

初吹きは焦らずに! [コラム]

明けましておめでとうございます! 21世紀の始まりです。

 多くの方が、年が明けてする初○○と言う物には気を使うのではないでしょうか。初吹きや初レッスンにもついつい気合いが入り過ぎてしまう事も多くありませんか?しかし、初吹きは多くの場合悪い癖を治すのにとても良いチャンスなのです。焦って上手く吹こうとしたり、いきなり難しい練習をしたり、長い時間練習したりすると折角のチャンスを無駄にしてしまいます。こんな事をすると折角の悪い癖を治す良いチャンスに、わざわざ悪い癖を付けてしまいます。

 年末年始は多くの方が何かと忙しく、サックス等吹いている暇はないのではないでしょうか?また、この時期は寒い日も多く体の動きも鈍くなっているはずです。少しでも時間があれば急いで練習したいでしょうが、前にも書いた通り、楽器を演奏すると言う事はスポーツと同じです。十分なウォーム・アップをしてから練習しないと、体を痛めてしまいます。このような時期はあまり無理して練習しない方が良いと思います。

 年明けに今まで練習出来なかった分を取り戻そうと、慌てて練習をするのも、先程と同様の理由で考えものです。練習しなければ当然筋肉は落ちてきますし、勘も鈍ってきます。「折角練習してきた事が無駄になるのではないか。」と心配になるでしょうが、大丈夫です。一度身に付けた技術や勘はすぐに取り戻せます。逆に、急いで技術や勘を取り戻そうとして、悪い癖を付けてしまい、結果的に下手になってしまうことの方が多いのではないでしょうか。そんなとき「しばらく練習していなかったから下手になったんだ。」と思い込んで更に練習すると「悪い練習のアリ地獄」にはまってしまいます。

 筋肉が落ちていると言う事は、当然、悪い癖を起こす筋肉も落ちています。また、勘が鈍っていると言う事は悪い癖も忘れています。しかし、調子が良かった時のイメージは頭の中に残っているはずです。しばらく演習していなかった時は、そのイメージを早く取り戻したくて焦るのですが、その時に余計な悪い癖も追加してしまうのです。ですから、久し振りに吹く時は一つ々々自分のフォームをチェックしながら、焦らずゆっくりとトレーニングしていくのです。長く(何年も)楽器を吹きたいのであれば、寒い時期や暑い時期の無理な練習は避けましょう。

 1年の初めに良いスタートを切りたいと言う気持ちを空回りさせない為にも、初吹きから姑くはフォームのチェックや楽器を吹く為の基礎体力作りに専念しては如何でしょうか?ここでしっかりとしたフォームと基礎体力を身に付けておく事で、それからの練習やレッスンも効率良くなるはずです。レッスンが間に合わない時は諦めて(?)叱られましょう。でも、トレーニング法を知っている先生はこの時期あまり無理は言わないと思いますので、叱られる事は少ない(音大受験生は別ですが・・・)と思います。

 と言う事で、初吹きは焦らず、行ってみて下さい。「えっ?」「1月も終わりになってから書くなって?」もう初吹きで無理をしてしまった方、申し訳ありません。

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